人材育成「情報セキュリティ10大脅威2026」3位のAIリスクと社員教育

2026/10/20
「情報セキュリティ10大脅威2026」3位のAIリスクと社員教育

いつもの取引先から、丁寧で自然な日本語のメールが届きます。添付の請求書を確認してほしいという内容で、文面に不審な点は見当たりません。このメールが、攻撃者が生成AIで作ったものだったとしたら、社員は見抜けるでしょうか。

生成AIのリスクというと、多くの企業は社員がAIに機密情報を入力してしまう「入力」の問題を思い浮かべます。しかしAIのリスクは、自社がAIを使う場面だけで起きるわけではありません。攻撃者がAIを使えば、自社がAIの利用を禁止していても、AIによりリスクを負うことになります。

IPA(情報処理推進機構)が2026年1月に発表した「情報セキュリティ10大脅威 2026」の組織編では、「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が初めて選出され、3位に入りました。IPAはこのリスクに、情報漏えいだけでなく、AIの出力を検証せずに信用してしまう問題や、AIの悪用によってサイバー攻撃が巧妙になる問題も含めています。

社員教育で押さえるべきAIのリスクは、「漏らす(入力による情報漏えい)」「信じる(出力の鵜呑みと権利侵害)」「騙される(AIで巧妙になった攻撃)」の3つです。この3つは必要な教え方が異なるため、入力禁止の周知だけでは残り2つが教育から抜け落ちます。

この記事では、IPAの解説書をもとに3つの視点を整理し、それぞれを社員教育にどう落とし込むかを解説します。

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「AIの利用をめぐるサイバーリスク」とは
IPAが挙げる3つの問題

「情報セキュリティ10大脅威 2026」で組織3位に初選出された「AIの利用をめぐるサイバーリスク」は、AIへの理解不足による情報漏えいや権利侵害、AIの出力を検証せずに信用すること、AIの悪用による攻撃の容易化・巧妙化の3つを含むリスクです。IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026 解説書(組織編)」では、このリスクの具体例として次のような事例が紹介されています。

  • 業務で生成AIにデータを貼り付けて入力した利用者の多くが、組織に管理されていない個人アカウントを使っていた(米国AI企業の調査)
  • 弁護士が生成AIで作成した意見書に、実在しない判例が引用されていた(2025年1月、米国)
  • 生成AIを補助的に使って作られたプログラムが、不正な回線契約に使われた(2025年2月、国内)
  • 業務向けAIアシスタントの脆弱性により、不正な指示を紛れ込ませると社内の秘密データが流出するおそれがあった(2025年6月報道、修正済み)
  • AIの翻訳機能により、標的の母国語で違和感のないフィッシングメールが作れるようになっている

解説書は、従業員に求められる対策として、社内の秘密情報を安易に入力しないこと、ハルシネーションの存在を理解すること、AIへの過剰な依存に注意することに加えて、「AI利用に関する講習などのプログラムを受講する」ことも挙げています。AIのリスク対策は、システムや規程だけでなく、社員一人ひとりの理解が前提になるということです。

この記事では、IPAが挙げる3つの問題を、社員の行動に沿って次の3つの視点に整理します。

視点 社員の行動 起こりうる被害 自社がAIを禁止していても起きるか
漏らす 機密情報や個人情報をAIに入力する 秘密情報・個人情報の漏えい 起きる(個人アカウントでの利用)
信じる AIの回答や生成物を確かめずに使う 誤った情報による判断ミス、他者の権利侵害 起きる(個人アカウントでの利用)
騙される AIで作られたメールや音声・映像を信じて対応する 不正アクセス、金銭被害、情報の窃取 起きる(攻撃者がAIを使うため)
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視点1「漏らす」入力による情報漏えい

入力による情報漏えいは、会社が「何を、どのAIに入力してよいか」を定め、社員がその基準で判断できれば大部分を防げるリスクです。3つの視点の中では最もルール化しやすく、多くの企業が最初に取り組む領域でもあります。

問題になりやすいのは、会社が利用を認めていないAIを、社員が個人アカウントで業務に使う「シャドーAI」です。IPAの解説書では、組織が個人アカウントでの業務利用を把握できないこと自体が問題だと指摘されています。

インターネット・アカデミーにご相談いただく企業でも、会社としてAIを導入する前に社員が個人で使い始めているケースが多く見られます。あるサービス業(従業員300〜1,000名規模)では、無料アカウントでの利用が広がり、メールの返信文を作る際に機密情報を貼り付けてしまうケースがあることが課題になっていました。

このリスクに対する教育の要点は、禁止事項を覚えさせることではなく、入力する前に「この情報は社外に出てもよいか」「このAIは会社が認めたものか」を確かめる習慣をつけることです。社員に教えるべき「入力してはいけない情報」の具体例は、「生成AIで情報漏洩を防ぐには?社員に教えるべき「入力してはいけない情報」とセキュリティの基本ルール」で詳しく解説しています。

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視点2「信じる」AIの出力を鵜呑みにするリスク

AIの出力を鵜呑みにするリスクは、入力のルールを守って正しいAIを使っていても起きるリスクです。そのため、入力禁止の周知だけでは防げず、AIの回答を業務に使う前に確かめる手順を教える必要があります。

ハルシネーションAIはもっともらしく間違える

対話型の生成AIは、実在しない情報を事実のように生成することがあります。これを「ハルシネーション」と呼びます。IPAの解説書では、2025年1月に米国の裁判所で、弁護士が生成AIで作成した意見書に実在しない判例が含まれていた事例が紹介されています。この弁護士は、ハルシネーションの存在を知らなかったとされています。

専門職でさえ誤りに気づけなかったという点が、このリスクの難しさを示しています。AIの回答は文章として自然で、誤りがあってもそれらしく見えるためです。インターネット・アカデミーにご相談いただいたある金融関連企業(従業員100〜300名規模)でも、AIにできることとできないことの理解が職員の間で不足していることが課題になっていました。

権利侵害生成物をそのまま使うリスク

AIで生成した文章や画像が既存の著作物に似ていた場合、それをそのまま資料や広告、Webサイトに使うと、他者の権利を侵害するおそれがあります。IPAも、AIへの理解不足による他者の権利侵害をこのリスクに含めています。社外に出す生成物ほど、利用前の確認が重要になります。

教育の要点「なぜ間違えるのか」と「どこを確かめるのか」

このリスクへの教育では、まず生成AIがどのように文章を作っているのかを理解してもらうことが出発点になります。生成AIは、事実を調べて答えているのではなく、もっともらしい文章を組み立てています。この仕組みを知ることで、「自然な文章だから正しい」という思い込みが外れます。

そのうえで、数字、日付、固有名詞、法令や制度の内容、引用元の実在といった確認すべき点を具体的に示し、AIが誤った回答を出す例を受講者自身に確かめてもらう演習を行うと、確認の習慣が身につきやすくなります。

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視点3「騙される」AIで巧妙になった攻撃

AIで巧妙になった攻撃は、社員がAIを使うかどうかに関係なく受けるリスクです。攻撃者がAIを使うことで、社員に届くメールや電話、ビデオ会議が本物と見分けにくくなっています。そのため、自社でAIの利用を禁止してもこのリスクはなくなりません。

自然な日本語で届くフィッシングメール

かつては、不自然な日本語がフィッシングメールを見分ける手がかりの一つでした。IPAの解説書では、AIの翻訳機能によって、標的の母国語で違和感のないフィッシングメールを作れるようになっていると指摘されています。

フィッシング対策協議会が2026年6月に公開した「フィッシングレポート 2026」によると、2025年のフィッシング報告件数は2,454,297件で過去最多となり、前年の約1.43倍に増えました。同レポートでは、脅威の変化として「生成AIを活用した巧妙な攻撃の増加」にも触れています。

音声や映像のなりすまし

AIは、実在の人物の声や顔を模倣した音声・映像(ディープフェイク)の作成にも使われています。2024年2月には、香港の多国籍企業で、会計担当者がディープフェイクで作られたCFOや同僚が参加するビデオ会議に騙され、約2億香港ドル(約38億円)を送金した事件が報じられました。担当者は当初フィッシングを疑っていたものの、顔見知りの参加者がいたことで疑いを解いたとされています。

参考:ディープフェイクCFO事件の解説|KnowBe4

既存のセキュリティ教育を「AI前提」に更新する

このリスクは、標的型メールやなりすましといった従来の手口が、AIによって見分けにくくなったものです。そもそも従来の手口への備えが十分でない企業も少なくありません。インターネット・アカデミーにご相談いただいたある小売業(従業員100〜300名規模)では、全社で標的型メール訓練を行ったところ、約半数の社員が不審メールを開封していました。

「文面が自然かどうか」「知っている人の声や顔かどうか」といった見た目の判断は、AIによって通用しなくなりつつあります。教育では、送金やパスワード入力、情報の提供を求められたら、別の連絡手段で本人に確認するといった「見た目に頼らない確認の手順」を教えることが重要です。IPAも経営者層の対策として、決裁・承認に複数名のチェックを規程化することを挙げています。

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3つの視点を社員教育に落とし込む方法

AIのリスクを社員教育に落とし込むには、3つの視点ごとに教える内容と教え方を分けて設計することが重要です。入力は「判断基準」、出力は「確認の習慣」、攻撃は「見た目に頼らない確認手順」と、身につけるものがそれぞれ異なるためです。

視点 教える内容 効果的な教え方
漏らす 入力してよい情報の区分、利用を認められたAIとそうでないAIの違い 自社の資料やメールを題材に、入力してよいかを判断する演習
信じる 生成AIの仕組み、ハルシネーション、権利侵害のリスク、確認すべき点 AIが誤った回答を出す例を受講者自身が確かめる演習
騙される AIで巧妙になったフィッシングやなりすましの手口、別経路での本人確認 実際の手口をもとにした事例学習と、標的型メール訓練などの実践

AI活用研修とセキュリティ研修を切り離さない

AIのリスク教育は、AI活用研修とセキュリティ研修のどちらか一方だけでは押さえきれません。「漏らす」「信じる」は、AIを業務で使う場面に即して教える必要があり、AI活用の文脈と切り離せません。一方で「騙される」は、従来の情報セキュリティ教育の延長線上にあるテーマです。

AI活用研修だけを行うと攻撃への備えが抜け、セキュリティ研修だけを行うとAIを使う場面の判断が抜けます。それぞれの研修がどの視点をカバーしているかを確認し、抜けを埋める形で組み合わせることが効果的です。

立場ごとに重点を変える

IPAの解説書も、経営者層・システム管理者・従業員で求める対策を分けています。社員教育も、立場ごとに重点を変えると実効性が高まります。

  • 経営層AIの利用規程や、決裁・承認に複数名のチェックを入れるなど、組織としての仕組みを判断するための理解
  • 管理職部下からAIの使い方や不審な連絡について相談されたときに、判断して答えられる知識
  • 情報システム部門社内のAI利用状況の把握、多要素認証の徹底など、AI悪用を前提にした対策の見直し
  • 全社員入力前の判断、出力の確認、不審な連絡への確認手順という、3つの視点の基本動作

攻撃の手口やAIの機能は短い期間で変わるため、一度の研修で終わらせず、手口の変化に合わせて内容を更新していく前提で計画することも大切です。

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AI研修とセキュリティ研修の両方の視点で学ぶ

インターネット・アカデミーのAI・セキュリティ研修は、生成AIの利用を禁止するのではなく、社員がAIを安全に使うための判断基準を身につける法人向け研修です。AI研修と情報セキュリティ研修の両方を提供している会社として、AIを使うことを前提にリスクへの備えを学ぶ構成にしています。

研修では、次の3つの領域を扱います。

  • AI基礎リテラシー生成AIの仕組み、できることとできないこと、ハルシネーションと出力の検証、無料版と有料版のデータの扱い
  • セキュリティ入力してよい情報の判断基準、機密情報・個人情報の取り扱い、著作権などの権利リスク、生成AIをめぐる事故の動向
  • 社内ルール・ガバナンス社内利用ルールの考え方、許可範囲の決め方、管理者・推進部門の視点、全社への展開と運用

内容は、受講者の職種、既存の社内ルール、使用しているAIツール(ChatGPT、Copilot、Gemini、Claudeなど)に合わせて構成します。全社員向けは1回2時間前後の構成が多く、研修後には理解度テストの結果と受講率・進捗のレポートを提供します。まず約10名で先行して実施し、効果を確かめてから全社に展開することも可能です。

標的型攻撃やサイバー攻撃の手口を含め、情報セキュリティ全般の基礎から学びたい場合は、情報セキュリティ入門研修などのセキュリティ研修もご用意しています。自社の課題に合わせた組み合わせもご相談ください。

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よくある質問

Q. 「情報セキュリティ10大脅威 2026」で、AIのリスクは何位ですか。

IPAが2026年1月29日に発表した「情報セキュリティ10大脅威 2026」の組織編では、「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が3位に初めて選出されました。このリスクには、AIへの理解不足による情報漏えいや権利侵害、AIの出力を検証せずに信用すること、AIの悪用による攻撃の容易化・巧妙化が含まれます。

Q. 社内で生成AIを禁止すれば、AIのリスクはなくなりますか。

生成AIの社内利用を禁止しても、AIのリスクはなくなりません。社員が個人アカウントで隠れてAIを使う「シャドーAI」が生まれるおそれがあるうえ、攻撃者がAIを使って作るフィッシングメールやなりすましは、自社のAI利用とは関係なく社員に届きます。禁止よりも、安全に使うための判断基準を社員に身につけてもらうことが現実的な対策です。

Q. AIのリスク教育は、AI活用研修とセキュリティ研修のどちらで行うべきですか。

AIのリスク教育には、AI活用と情報セキュリティの両方の観点が必要です。入力による情報漏えいや出力の鵜呑みは、AIを業務で使う場面に即して教える必要があります。一方、AIで巧妙になったフィッシングやなりすましへの備えは、従来の情報セキュリティ教育の延長線上にあります。どちらか一方だけでは抜けが出るため、両方を組み合わせて設計することが効果的です。

Q. 従業員に求められるAIのセキュリティ対策には何がありますか。

IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026 解説書(組織編)」では、従業員に求められる対策として、社内の秘密情報を安易に入力しないこと、ハルシネーションの存在を理解すること、AIへの過剰な依存に注意すること、AI利用に関する講習を受講すること、被害を受けた場合に適切に報告・連絡・相談することが挙げられています。

Q. 全社員向けのAI・セキュリティ研修には、どのくらいの時間が必要ですか。

インターネット・アカデミーのAI・セキュリティ研修では、全社員向けは1回2時間前後の構成が多く、管理者や推進部門向けに判断基準の設計まで扱う場合は複数回に分けた構成を推奨しています(2026年10月時点)。時間数は、受講者の職種や使用しているAIツール、既存の社内ルールに合わせて調整します。

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まとめ

  • 「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が組織編3位に初選出された
  • 社員教育で押さえるべきAIのリスクは、「漏らす(入力)」「信じる(出力・権利)」「騙される(AIで巧妙になった攻撃)」の3つ
  • 入力禁止の周知だけでは「信じる」と「騙される」が教育から抜ける。「騙される」は、自社がAIを禁止していても起きる
  • 3つの視点は教える内容も教え方も異なるため、AI活用研修とセキュリティ研修を組み合わせ、立場ごとに重点を変えて設計する

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