AX実現に向けた組織変革と
管理職スキル

2026/08/06
執筆者:インターネット・アカデミー株式会社
主席コンサルタント 稲葉光
AX実現に向けた組織変革と管理職スキル

※本記事は、経営層・人事担当者向け専門情報誌「月刊人事マネジメント」7月号に掲載された寄稿記事です。

前回はAI活用人材の育成において、2段階による教育手法の重要性をお伝えしました。まずは全社的なリテラシーの底上げを図り(STEP1)、組織としてAIへの理解が高まった後、実務に直結する応用展開(STEP2)へと進める流れです。こうすることで、一部の社員のスキルに依存する属人化を防ぎ、組織全体として再現性のある活用を実現できます。

2ステップによるAI人材育成

実務に直結したAI活用を推進するうえで、人事・マネジメント層が見落とさないようにすべきはベテラン層です。彼らの中には豊富な実務経験と高いコミュニケーション能力を併せ持つ人材もいるでしょう。こうした人材へAIリスキリングを促すことで、現場の業務プロセスに即した実践的な活用法が生まれやすくなり、AI導入のスピードが加速します。周囲の若手・中堅社員への波及効果も期待できます。

令和7年の情報通信白書によると、米国では90.6%、ドイツでは90.3%、中国では95.8%と生成AIの導入が進んでいます。他国と比べてAI活用率の低い日本でも、55.2%の企業が業務でAIを使用と回答しています。業務効率化や成果物の品質向上において、すでに非導入企業との間で労働生産性に明確な差が出始めています。AI起点での人材育成や新たな体制づくりを進めることは最優先事項です。

操作法の学習ではなく実際の業務へ組み込む

最近、企業の研修担当者やマネジメント層との打ち合わせで議題によく上がるテーマが、「AIを活用して組織やチームの課題をいかに克服するか」です。

研修で確実にスキルアップを図るためには、実際の現場が抱える課題をそのままテーマに取り上げることが有効です。業務プロセスにおけるボトルネックや非効率な作業を洗い出し、それを「AIでどう解決するか」を具体的に考案します。プレゼン資料の作成、定型業務の自動化、さらには他システムとの連携までを視野に、実務に直結した思考法やスキルを学習していきます。

単にAIの操作方法を学ぶのではなく、「自社の業務フローをどう変革するか」というアウトプットを重ねることで、受講者は自社業務への応用イメージを持つことができます。実際に、研修中に課題解決の糸口を見出すというケースもあります。

AI活用人材の育成と並行して進めなければならないのが、セキュリティやAI利用規定の策定と周知です。個人情報の取り扱い、著作権の侵害リスク、さらには生成AIのデータ学習の仕組みなど、理解し、順守すべきルールは多岐にわたります。実際、IPA(情報処理推進機構)の「DX動向調査」を見ても、生成AIの利用規定を策定する企業が増える一方で、現場のガバナンス浸透に課題を抱える企業は少なくありません。

そこで有効となるのが実務に直結した研修の場です。AI活用におけるリスクや注意点を、実際の事故例や最新の技術トレンドと交えながら学ぶことで、社員は当事者としてリスクを捉えられます。

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業務プロセス改革(BPR)でAIの力を発揮できる組織へ

業務プロセス改革(BPR)でAIの力を発揮できる組織へ

「STEP1:全社的なリテラシーの底上げ」「STEP2:実務直結型の応用展開」と段階を踏み、いざ全社的なAI導入を推し進めようとするときに壁となるのが、既存の業務プロセスです。業務フローが非効率な構造のままであれば、いかに先進的な技術を導入しても、局所的な効率化に留まってしまいます。業務の一部を置き換えるだけの部分最適から脱却し、AIによってビジネスのあり方そのものを変革するAX(AIトランスフォーメーション)を実現するためには、「AIに既存業務を手伝わせる」という視点を乗り越えなければなりません。

AIの真価を引き出すためには、それを受け入れる組織の整備、すなわち業務プロセス改革(BPR)が不可欠です。課題となっている業務プロセスを詳細に可視化し、どのプロセスにAIを組み込むのが効果的かを設計することで、課題解決へと導きます。

もう1つの大きな障壁が、データの未整備という状況です。サプライチェーンを含めた自社固有のデータをAIにどう組み込み、学習させるかという視点が欠かせません。「DX動向調査」でも、国内企業がDX・AI活用を進めるうえで、データの利活用環境の未整備や、推進リーダーの不足が課題として上位に挙げられています。データの利活用は情報システム部門に一任すべき領域ではなく、ビジネスの現場と顧客の状況をよく知る、非IT部門の管理職が主体的に関わるべき重要な経営課題です。

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AIエージェント登場で求められる構造改革

AXを推進するにあたり、私たちが考慮すべきなのは、「AIエージェント」が主役となる時代へ移行しつつあるということです。欧米の最先端企業やビッグテックにおける数千人規模の組織再編の背景には、業務のAIエージェント化があるといわれています。AIに任せられる定型業務はすべてAIに委ね、人間はより高付加価値な領域へとシフトするという、AXを見据えた構造改革の一環です。

国内でも波は確実に押し寄せています。共同通信社が今年5月に発表した主要企業へのアンケート調査によると、国内主要企業の60%が「2030年までに生成AIが自社の業務を一定の割合で代替する」と予測しています。タイムラグはあるものの、日本企業も海外と同様の変革期を迎えていることは間違いありません。国内でも、組織の構造や事業モデルそのものを変革させ、大規模なリスキリングを進めている企業が見られます。

海外企業や、国内の先行企業がAIによって劇的なコストダウンと事業スピードの加速を果たすなか、従来の体制を維持したままでは、市場における競争力に決定的な差が生まれかねません。自社が現状維持を選択したとしても、他社はAIを導入して変化を続けます。同様の構造改革を決断する企業は、今後ますます増えていくと考えられます。

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マネジメントスキルはAIエージェント前提に

近い将来、管理職によるマネジメントの対象は、複数のAIエージェントへ拡大していくと考えられます。それに伴い、管理職には「AIにどのような前提条件を認識させるか」という指示・設計の知識や、AIエージェントが提示したアウトプットを評価・修正する成果物管理のスキルが必須となるでしょう。これらのスキルを習得するためには、AIエージェントをどのように自部署の業務フローへ組み込むか、どのようにBPRを進めていくかを体系的に理解する必要があります。

世界経済フォーラムの「仕事の未来レポート2025」では、2030年までにAIとビッグデータ、ネットワーク、サイバーセキュリティ、テクノロジーリテラシーなどのスキルの重要性が急速に増すと予測されています。そして上昇傾向にあるスキルトップ10として、リーダーシップや社会的影響力、人材管理、分析的思考なども挙がっています。

管理職はAIエージェントを迎え入れ、チーム全体の生産性を最大化していく存在です。AIに対する正しい理解と、自社の強みを最大化するために既存の業務プロセスを刷新できる実践的なスキルが求められます。

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セミナー講師

稲葉光
インターネット・アカデミー ITコンサルタント 室長

インストラクター、カリキュラム開発、マーケティングなどの専門部署を経て身につけた幅広いITの知見を強みとするITコンサルタントで、400社を超える企業のデジタル人材育成を支援。

主な講演実績:神奈川工科大学、エコーネットコンソーシアムフォーラム
主な認定資格:認定資格:Python、Java、PHP、W3C dev、Adobe認定エキスパート、Google広告認定資格 ※他多数

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