人材育成情シスへの問い合わせが減らない本当の理由~社員の"自己解決力"を上げる教育設計~
2026/07/10
「ネットで調べれば10秒でわかることなのに、毎回聞いてくる」
「わずかな人数で全社のデジタル化を支援しながら、日常の問い合わせ対応まで回せない」
「リソースの8割が現場サポートに取られており、本来やるべき戦略的な業務が後回しになっている」
こうした声が、情シスやDX推進部門から多く寄せられます。調査データも同じ実態を示しています。情シス担当者を対象にした調査(OrangeOne、2023年)では、情シス部門で最も多くの時間を使っている業務として「問い合わせや障害対応」が54.7%でトップとなり、同調査で情シス部門の約7割が「人手不足」かつ「疲弊状態」にあると回答しています。
人員は増えないのに、問い合わせは減らない。業種・規模を問わず、多くの企業で起きている構造的な課題です。
本記事では、情報システム部門への問い合わせが減らない原因を整理したうえで、社員の自己解決力を高める教育設計のアプローチと、各部署にデジタル窓口を置く組織づくりの考え方を解説します。
情シスへの問い合わせが減らない本当の理由
多くの企業は、問い合わせが多い原因を「社員のITリテラシーが低いから」と捉えます。では、なぜリテラシーが上がらないのか。そこには、スキル不足だけでは説明できない3つの構造があります。
理由1「困ったら情シスに聞く」が文化になっている
問い合わせが多い組織に共通しているのは「困ったら情シスに聞く」という暗黙の文化です。社員側に悪意はなく、それが最も早く解決できる手段だと学習してしまっています。
あるご相談企業(情報通信業、従業員約560名)では、システム操作から簡単なPC設定まで、あらゆる問い合わせが情シスに集中していました。対応履歴を分析すると、問い合わせの多くが「マニュアルに記載済み」または「検索で即解決できる内容」だったといいます。
リテラシーの低さだけではなく「自分で調べる前に聞く」という行動パターンが組織に文化として定着してしまっていました。
理由2そもそも「何に使えるかわからない」
DXツールやAIの導入が進んでいる企業でも、同じ構造が起きています。あるご相談企業(運輸業、従業員約270名)では、生成AIツールを全社展開しましたが、「何に使えばいいかわからない」という声が続出し、使い方の問い合わせが情シスに集中しました。
このケースでは「自分の業務とツールの接続点」が見えていない状態でした。この状態でツールの使い方の研修を実施しても業務活用されることなく学んだ内容も定着しません。
理由3情シス・DX推進が何でも屋になっている

少人数で全社を担当する情シス・DX推進部門が「何でも屋」として機能せざるを得ない構造は、人員の問題ではなく、組織設計の問題です。あるご相談企業(大手製造業、従業員約400名)では、「DX推進部門が2名で全社を担当しており、戦略立案どころか問い合わせ対応と社内調整だけで1週間が終わる」という状況が続いていました。
ツールやマニュアルだけでは解決しない
「FAQを整備した」「チャットボットを入れた」という対策は有効ですが、問い合わせを根本的に削減するには至らないことが多いです。
FAQやチャットボットは「検索して調べる習慣がある人」にしか機能しないため、そもそも「自分で調べる」という行動を取らない人にはほとんど効果がありません。
実態としても、企業のITリテラシー教育への取り組みは遅れています。キーマンズネット編集部が実施した調査(2022年)では、社員のITリテラシー・デジタルスキルへの対策について、「特に何もしていない」(30.5%)と「部門や個人の裁量に任されている」(30.5%)が同率でトップという結果でした。
(出典:キーマンズネット「従業員デジタルスキルの実態調査」)
ツールや仕組みの整備と並行して、社員の行動様式そのものを変える教育設計が必要です。
ITリテラシー研修のお役立ち資料をダウンロードするよくある失敗パターン4選
問い合わせ削減を試みたにもかかわらず、うまくいかないケースには共通したパターンがあります。
失敗1マニュアル・FAQだけ整備して終わる
マニュアルなどを作っても、自分で調べる習慣がなければ活用されません。整備したことで担当者が満足してしまい、行動変容への介入が止まります。FAQは「調べたい人が調べる」ための手段であり「調べない文化」を変える手段にはなりません。
失敗2全社員に一律の研修を1回だけ実施する
受講直後は理解しても、業務に戻れば元の行動パターンに戻ります。特に受講者が自分の業務に使えるイメージが持てなかった場合、定着率は著しく低下します。1回だけ研修をし放置というのは最も多い失敗パターンです。
失敗3情シスが善意で個別対応し続ける
「今は忙しいのでFAQを確認してください」と言えず、毎回丁寧に答えてしまう。その善意が「聞けば答えてもらえる」という文化を醸成します。情シスが対応をやめない限り、社員が自分で解決しようとする動機は生まれません。
失敗4経営層・管理職を研修から外す
現場だけリテラシーを上げても、上司が「なんでも情シスに聞けばいい」という態度を示していれば文化は変わりません。組織文化は上位層の行動が規定します。管理職・経営層を最初に動かすことが、現場への波及を生む最短経路です。
自己解決力を上げる教育設計の3ステップ
問い合わせを構造的に減らすには、次の3つの視点で教育設計を組む必要があります。
ステップ1「なぜ使うか」から始めるリテラシー教育
操作方法を教える前に、「なぜデジタルツールを使うか」「自分の業務にどう活きるか」という理解を先につくります。目的がない状態でスキル習得しても定着しません。
AI基礎研修や生成AI研修では、ツールの操作だけでなく「業務への接続点を自分で見つける」思考法を習得することを重視します。「これを覚えれば自分で解決できる」という自立の体験をつくることが重要です。
ステップ2自分で調べる習慣づけの仕掛け
研修後に大切なのは、習慣化の設計です。「まず自分でFAQや公式ヘルプを確認する」というルールを組織として明文化し、情シスへの問い合わせの前に一次確認を促す仕組みを作ります。
研修の中で「こういうときはここを調べる」というルーティンを体験させることが、実務での行動変容につながります。
ステップ3階層別・部署別に研修対象を絞る
「全社員に同じ研修を」は効率が悪く、定着率も低い傾向があります。経営層→管理職→現場の順に研修を展開することで、上位層が「自分でやってみる」姿勢を示し、組織全体の文化変容を促せます。
特に初期段階では、まず影響力のある管理職層にリテラシーを身につけさせ、現場へのロールモデルを作ることが有効です。
各部署に「デジタルエバンジェリスト」を育てる
問い合わせ削減において即効性が高い施策の一つが、各部署に「デジタルエバンジェリスト(社内DX窓口)」を育成することです。
デジタルエバンジェリストとは、情シスでも技術者でもなく、「その部署でデジタルに詳しい人」として機能する普通の社員です。部署内に「○○さんに聞けばわかる」という存在を育てることで、情シスへの問い合わせが部署内で完結するようになります。
育成の流れは以下が基本です。
- 候補者の選定:
各部署から1〜2名、IT活用に前向きなメンバーを選ぶ(強制しない) - 重点研修の実施:
生成AI研修・AIエージェント入門など、実務直結のスキルを集中的に習得させる - 権限と役割の明確化:
「デジタル窓口担当」として公式に位置づけ、社内で認知させる - 定期的な情報共有の場を設ける:
情シス・DX推進との月次ミーティングなどで最新情報を共有し、孤立させない
このモデルを導入すると、情シスへの直接問い合わせが減少するだけでなく、各部署でのデジタルツール活用が加速する副次効果も期待できます。
ITリテラシー研修のお役立ち資料をダウンロードするまとめ
情シスへの問い合わせが減らない根本原因は、社員のスキル不足ではなく、「自分で調べる習慣と文化」が組織に根付いていないことにあります。
- 情シス担当の約7割が「人手不足」「疲弊感」を訴えており問い合わせ対応が業務時間の半数以上を占めるケースも珍しくない
- 企業のリテラシー教育対策は、6割超が「特に何もしていない」または「個人任せ」の状態
- ツールやFAQの整備だけでは、「自分で調べない文化」は変わらない
構造的に問い合わせを減らすには、次の3点がセットで必要です。
- リテラシー教育で「使う意味」を先に理解させる
- 「自分で調べる」行動を習慣化させる研修設計
- 各部署にデジタルエバンジェリストを育成し、一次解決を現場に委ねる仕組みをつくる
インターネット・アカデミーでは、1,200社以上のAI・DX人材育成実績をもとに、情シス・DX推進部門の負荷軽減を目的とした全社員向けリテラシー研修から、エバンジェリスト候補者向けの重点育成プログラムまで、貴社の組織状況に合わせた設計をご提案します。
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この記事の執筆者

インターネット・アカデミー ITビジネスサプリ編集部
インターネット・アカデミーは、IT研修・ITトレーニングなど法人向け研修サービスの提供と、就職・転職などの社会人向け通学制スクールの運営を行っている教育機関です。グループ企業を含めると、「制作」「人材サービス」「教育」の3つの事業のノウハウをもとに、ITビジネスを行う現場担当者の皆様にとって役立つ情報を発信しています。
監修者

インターネット・アカデミー 有村 克己
「カシオ計算機」「小学館」などの大手企業研修をはじめ、神奈川工科大学やエコーネットフォーラムでの講演など、産学連携活動にも従事。エコーネットコンソーシアム「ECHONET 2.0技術セミナー検討WG」委員。
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