人材育成【DSS特集3】DX推進に必要なスキルとは?5つの人材類型について解説
2023/02/23第1回や第2回の記事では、企業や組織のDX推進を人材・スキル面からサポートするため総務省とIPAによってまとめられたDXに必要な「デジタルスキル標準」が、「DXリテラシー標準」「DX推進スキル標準」からなることを確認し、「DXリテラシー標準」については既に内容を紹介しました。
本記事では「DX推進スキル標準」とはどのようなものか確認することを通じて、DX推進のために必要とされている具体的な人材の類型についてまとめていきます。
目次
「DX推進スキル標準」とは
「DX推進スキル標準(DSS-P)」とはDX推進の中心的な立場を担う人材について、その役割と必要スキルセットをまとめたものとなっており、2022年12月に総務省とIPAによって策定された「デジタルスキル標準(DSS)」の構成要素の一つです。
「DX推進スキル標準」はDX推進のために必要な人材像を明確にしめすことによって、各企業が各々のビジョン達成のために必要な人材を正しく把握し、人材の育成・確保の施策をたてることをサポートする役割が期待されています。
具体的には、以下の図に示すようにDX推進の中心的となりうる人材の類型を5つに大別し、それぞれの類型ごとにさらに詳細に期待される役割(ロール)を示したのちに、それぞれのロールに必要なスキルセットを具体的に提示しています。
加えて、それらのスキルセットを身に着けるために必要な学習項目まで明確にしめされているので、企業が具体的に必要な人材の育成を試みる場合に大いに役立つことが期待されます。これらの人材類型は一つ一つでは、バラバラであるため実際にDXを推進しようという場合はこれらの人材類型間での密接なコラボレーションを実現していく必要があることにも注意しましょう。
以降の章では類型ごとの人材像やロールに応じた必要とされるスキルセットについて主要な部分を紹介していきます。
DX推進のための共通スキルセット
5つの人材類型の紹介に入る前に、DX推進に必要とされるスキルセットの大きな枠組みについて簡単にまとめます。
スキルセットは、ビジネス変革・データの活用・テクノロジー・セキュリティ・パーソナルスキルの5つのカテゴリーに大別されています。これらのスキルセットは、人材の類型問わずに学習することが求められますが、それぞれの人材の専門性に応じてどのカテゴリーを重点的に身につけるべきかが変わってきます。
ビジネス変革
ビジネス変革をもたらすために必要なスキルセットがまとめられています。より具体的には、変革を実現するための戦略だて・マネジメントのスキル、新たなビジネスモデルを策定するためのマーケティングやデザインのスキル、などについて必要項目がまとめられています。
データの活用・テクノロジー
DXを推進する立場として、最も基本的ともいえるデータの活用やソフトウェア(開発)、その他のテクノロジーに関連する知識は人材の類型やロールにかかわりなく最低限身につけておくことが望ましいです。具体的にIT技術がどのようなものかに関する知識を共有できていないと、それらの技術の導入する際の検討・計画・実行がスムーズに行えなくなってしまいます。
セキュリティ
安全にDXを推進するにあたって、情報のセキュリティ体制の構築・運営・マネジメントに関するスキルを持ち合わせていることは、DX推進の中心的な役割を担う人材にとっては特に必須のスキルといえます。
パーソナルスキル
DXに限らず、プロジェクトを進行し成功させるためには、リーダーシップやコラボレーション能力、ゴールを設定しそこに向けてステップを積み上げていく考え方、など様々なパーソナルスキルが求められます。本章ではそれらのスキルについて項目ごとにまとめられています。
人材類型1. 「ビジネスアーキテクト」とは?
まず、DXに求められる一つ目の人材類型として「ビジネスアーキテクト」を紹介します。ビジネスアーキテクトは、DX推進というプロジェクトの全体図を把握したうえで目標達成にむけた戦略・プロセスを設計する人材、と一言で表現することができます。
ビジネスアーキテクトには、デジタルを活用したビジネスを設計し実現に責任をもつこと、関係者をコーディネートし関係者同士の協働を構築・活性化すること、の2つの具体的なアクションが期待されます。
これらの人材に期待されるロール(あるいはDXの目標ともいえるかもしれません)は大きく以下の3種類に集約することができます。
1. 新規事業の開発
新規事業の開発とはデータやデジタル技術を活用した新規製品・サービスの開発をさしており、例えば新聞印刷の事業を行っていた会社が新聞業界の「発信」に関するノウハウを活かすためにWeb制作事業にも進出する、などといった事例が考えられます。
新規事業開発のためには、前章で登場した共通スキルセットのうち特に「ビジネス変革」に関する知識が必要とされます。ビジネス変革のなかでも、ビジネス調査やビジネスモデルの構築、プロジェクトの戦略やマネジメントなどの幅広い分野において特に高い専門性・実践力を身につける必要があります。
2. 既存事業の高度化
既存事業の高度化はデータやデジタル技術を活かした既存製品・サービスの価値向上をさしており、新聞会社の例であれば紙媒体に限らずデジタルコンテンツとしての情報提供ルートも開拓していく、といった例があげられます。
既存事業の高度化のためにも、新規事業開発と同様にビジネス変革に関する幅広いスキルセットが求められます。
3. 社内業務の高度化・効率化
社内業務の高度化・効率化のためにも「ビジネス変革」に関する知識が必要ですが、こちらについては、変革マネジメント(組織体制・風土、各種制度や人材、業務プロセスなどについての知識が必要)、プロジェクトマネジメントにおいて特に高い専門性・実践力が求められます。
人材類型2. 「デザイナー」とは?
続いて、第二の人材類型として「デザイナー」を紹介します。
デザイナーには、顧客・ユーザー視点にたったアプローチを常にプロジェクト全体に意識させる、UIなど顧客・ユーザーと製品・サービスとの接点のデザインを行う、といったアクションがもとめられます。 デザイナーはDX推進のあらゆるプロセスで活躍されることが期待されますが、大きく以下の3つの種類に大別することができます。
1. サービスデザイナー
サービスデザイナーは、社会・顧客・サービス提供側の社員等の抱える課題や行動から適切な製品・サービスの方針(コンセプト)をデザインし、かつそのデザインを継続的に行う仕組み作りをおこなうことが期待されます。この役割をはたすためには、「デジタル変革」スキルのなかで、「顧客・ユーザー理解」や「価値発見・定義」を包括するデザインの分野において高い実践力がもとめられることに加え、プロジェクトの戦略だて・マネジメント・ビジネスモデルやプロセスの設計といった分野においても一定の実践力が求められます。
2. UI/UXデザイナー
UI/UXデザイナーには、その名のとおり製品・サービスの顧客・ユーザー体験を設計し、製品・サービスの情報設計や、機能、情報の配置、外観、動的要素のデザインを行う役割が期待されています。この役割をはたすためには、前述の「顧客・ユーザー理解」や「価値発見・定義」を包括するデザインの分野において高い実践力がもとめられる他、「テクノロジー」や「プライバシー保護」などについても幅広い知識を持ち合わせている必要があります。
3. グラフィックデザイナー
グラフィックデザイナーは、ブランドのイメージを具体化しブランドとして統一感のあるデジタルグラフィック・マーケティング媒体等のデザインを行う役割を担います。この役割を果たすためには、「デザイン」に関する専門性・実践力のほかにも、「マーケティング」や「ブランディング」に関する専門性が必要とされます。
人材類型3. 「データサイエンティスト」とは?
データサイエンティストとは、データを活用した業務変革や新規ビジネスの実現に向けて、データを収集・解析する仕組みの設計・実装・運用を担う人材のことです。DXの成否を左右するといっても過言ではないデータの活用領域において中心的な役割を担うことが期待されます。データサイエンティストについても、その役割に応じて3つのロールに分類することができます。
1. データビジネスストラテジスト
データストラテジストとは、事業戦略に沿ったデータの活用法を考えるなど、「データサイエンティスト」とその他の人材や現場とを結びつける役割を担う人材のことです。他との連携を実現する人材のため、「データの活用」以外にもビジネス系やマネジメント系のスキルが幅広く求められるポジションになります。
2. データサイエンスプロフェッショナル
データサイエンスプロフェッショナルは、データの処理・解析に加えて、現場の仕組み作りやエンドユーザーへの教育など、その結果の活用に関して一定の役割を担います。そのため「データの活用」に関するスキルを有していることはもちろん、多様な関係者と適切にコミュニケーションを行える「パーソナルスキル」も重視されます。
3. データエンジニア
データエンジニアは、効果的なデータ分析環境の設計・実装・運用を通じて顧客価値を拡大する業務変革やビジネス創出を実現する役割を担っています。実際の開発に携わるため、「データの活用」とともに「ソフトウェア開発」などに関しても一定の実践力を身につけておく必要があります。
人材類型4. 「ソフトウェアエンジニア」とは?
ソフトウェアエンジニアはデジタル技術を活用した製品・サービスを提供するためのシステムやソフトウェアの設計・実装・運用を担う人材であり、DXの様々なアイデアを実現し、実際の価値の創出を行う役割を担います。ソフトウェアエンジニアには、企業の競争力を高めるソフトウェアを開発するために、常に高い技術力を維持することが求められています。ソフトウェアエンジニアについては、その業務に応じて以下のように4つのロールに分割されています。
1. フロントエンドエンジニア
フロントエンドエンジニアは、ユーザーインターフェース側の開発を担当するため、ソフトウェアに関する専門性のほかにも、「デザイン」や「プロダクトマネジメント」、「プロジェクトマネジメント」、「セキュリティ技術」などの分野についても知識が必要です。
2. バックエンドエンジニア
バックエンドエンジニアは、サーバー側の機能の開発を担い、ソフトウェアに関する専門性に加え「プロジェクトマネジメント」、「セキュリティ技術」などの知識も必要とされます。
3. クラウドエンジニア/ SRE
クラウドエンジニア/ SREは、クラウドを活用したソフトウェアの開発・環境の最適化を担います。ここでは、特に「セキュリティ技術」に関する高い専門性が求められます。
4. フィジカルコンピューティングエンジニア
フィジカルコンピューティングエンジニアは、デジタル化を実現するための物理的な空間の整備を担当する人材です。「テクノロジー」分野に含まれる「フィジカルコンピューティング」について高い実践力が求められることに加え、「システムズエンジニアリング」や「セキュリティ技術」に関する知識も望まれます。
人材類型5. 「サイバーセキュリティ」とは?
最後に5つ目の人材類型「サイバーセキュリティ」は、デジタル環境におけるサイバーセキュリティリスクの影響を抑制する対策を担う人材をさしています。具体的なサービスや製品の展開においてセキュリティが確保されていることは前提条件となるので非常に重要な役割を担う人材であるといえます。「サイバーセキュリティ」は特に他の人材類型や外部との連携のなかで活躍することが期待されています。サイバーセキュリティのロールは大きく以下の2つに分類されています。
1. サイバーセキュリティマネージャー
サイバーセキュリティマネージャーは、新たなビジネス改革案についてデジタルセキュリティリスクを評価し、顧客価値の高いビジネスの信頼性向上に貢献する役割を担います。そのため、「セキュリティ」に関する専門性はもちろんのことDXの目的であるビジネス変革やデータ活用に関する幅広い知識が求められています。
2. サイバーセキュリティエンジニア
サイバーセキュリティエンジニアは実際のサイバーセキュリティの導入や運用を行う人材で、日々移り行くデジタル社会のなかで想定される様々なリスクを感知できるように技術の最新動向について継続的な学習も必要とされます。
人材類型間の連携
これまでDX推進にあたって中心的な役割を担う5種類の人材類型について紹介してきました。ここでは、改めてこれらの人材の間での連携が非常に重要であることにも言及したいと思います。
またこれまでの記事で確認してきたように、DX推進スキル標準に示されている人材像はあくまでDXを中心的に推進する立場を想定しており、企業のDXを成功させるには直接的にはDXにかかわりのない社員たちを含み全社的にDXを目指せる環境を構築していく必要があります。
そのため実際にDX推進を成功させるために、総務省とIPAの連携により策定された「デジタルスキル標準」を上手く活用して、今後の人材育成・社員教育の参考にしてみてはいかがでしょうか。
DX推進のための人材育成の事例
インターネット・アカデミーのIT研修は、多くの企業にご利用いただいています。今回は、DX推進のために必要な人材の育成を行った事例を紹介します。
東日印刷 株式会社
我々は創業以来、新聞印刷をメイン事業にして大きくなってきた会社なのですが、時代の流れで新聞印刷だけだと発展性がないという危機感が年々高まっていました。そこで、「新聞印刷の事業以外に、将来性のある新しい事業を立ち上げよう」という想いのもと、新聞業界の「発信すること」に関するノウハウとの連携の可能性を感じて、Web事業を開始しようという方向になりました。
インターネットアカデミーには、新規事業開拓に関するコンサルタントも社員の研修もしていただき、無事自社サイトをリニューアルすることができました。今後はこれを足がかりに新たなITビジネスを始められればと考えています。
株式会社 堀内カラー
堀内カラーは1959年にカラーフィルムの現像所として大阪で創業し、以来日本の写真サービスやビジュアル制作の歴史と共に歩んできました。サービスや事業内容は時代に合わせて変革をしてきた一方で、営業スタイルについては従来型のいわゆる「地上戦」であり、Webを活用したマーケティングで問い合わせを増やすような「空中戦」が出来ていないことが課題でした。そこで、徹底的に営業スタイルを見直し、Webマーケティングに力を入れて「売れるWebサイト」を目指すことにしたのです。
当面の成果目標として、弊社のWebサイトを内製化しリニューアル公開することを設定していましたが、圧倒的な知識を持ったコンサルタントの先生が方向性を示しリードしてくれたお陰で、Webについてのノウハウがない我々でも、短期間でWeb戦略を立てて、不安を感じることなく内製化に向けて進んでいくことができました。
インターネット・アカデミーでは、お客様の状況や要望に合わせたデジタル人材育成の研修を提供しています。自社DX推進のためにデジタル人材育成の研修を検討している方は、お気軽にご相談ください。
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この記事の執筆者
インターネット・アカデミー ITビジネスサプリ編集部
インターネット・アカデミーは、IT研修・ITトレーニングなど法人向け研修サービスの提供と、就職・転職などの社会人向け通学制スクールの運営を行っている教育機関です。グループ企業を含めると、「制作」「人材サービス」「教育」の3つの事業のノウハウをもとに、ITビジネスを行う現場担当者の皆様にとって役立つ情報を発信しています。
監修者
インターネット・アカデミー 有村 克己
「カシオ計算機」「小学館」などの大手企業研修をはじめ、神奈川工科大学やエコーネットフォーラムでの講演など、産学連携活動にも従事。エコーネットコンソーシアム「ECHONET 2.0技術セミナー検討WG」委員。
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