AIを使いこなす社員の育成法
操作習得から「安全に自走できる組織」へ
執筆者:インターネット・アカデミー株式会社
主席コンサルタント 稲葉光
※本記事は、経営層・人事担当者向け専門情報誌「月刊人事マネジメント」8月号に掲載された寄稿記事です。
第1回と第2回では、AI活用人材の育成と組織変革について紹介しました。全社員を対象としたAIリテラシー研修(STEP 1)、業務実装を目的としたAX推進に向けた研修(STEP 2)という段階的なアプローチ、さらに現場経験豊富な層へのリスキリングや管理職向け研修の重要性についても解説しました。最終回の今回は、AI活用を積極的に進めている企業を中心に研修の内容が、操作習得から「安全に自走できる組織づくり」へ変わっていることを踏まえ、AI研修の選び方について紹介いたします。
急増している「次の段階」の課題
AIへの理解が深まり社員がAIを活用し始めると、ノーコードやローコードのツールを利用して、現場主導で業務アプリや業務改善ツールを作れるようになります。現場主導で業務効率化が進み、従来はシステム部門に依頼していた業務も自部門で解決できるようになります。
しかし同時に新たなリスクも発生します。利用者が仕組みを理解していなくても、AIはプログラムやコードを生成できるため、業務で継続的に利用していながら「なぜ動いているのか、誰も分からないまま利用している」というリスクです。システムの構造を理解していなければ、不具合が発生した際に対応できません。担当者が異動や退職をした場合、誰も保守できなくなる可能性もあります。セキュリティや情報管理の観点で問題が発生するケースも考えられます。AIに解決しようとさせても、正しく安全に使えるか責任を持てる人がいません。「作れること」と「安全に運用できること」は別です。今、企業研修は「活用方法を学ぶ段階」から、「正しく設計して安全に運用し、組織へ定着させる段階」へと注目が移っています。
理解が深まるからこそ生じる課題を解決するための研修を2種類紹介します。1つはAIガバナンスへの理解を深める研修です。情報漏洩対策、著作権への配慮、機密情報の取り扱い、社内ルールの整備などが主なテーマです。AIの利用者が増えるほど、こうした教育の必要性も高まっています。
もう1つが、開発におけるルールやマナーといった「お作法」的な知識を学ぶ研修です。非エンジニア職の人材が、システム設計の基本的な考え方、データの扱い方、運用や保守を見据えた開発の進め方などを習得するものです。AIの導入が進めば、全社員がAIエージェントを活用して業務ツールを作れるようになります。システム開発の経験がない人材でも、最低限の設計知識や運用知識が求められます。
AI研修のお役立ち資料をダウンロードするAI研修が失敗する企業の共通点

初回で述べたように、AI研修の課題で多く聞く声が、「知識は身についたものの業務で活用されていない」です。全社員向けリテラシー研修や業務実装研修を実施しても、期待した成果が得られていないという状況です。その背景には、研修内容や研修会社の選定における課題があります。
まず見られるのが、ツールの使い方だけに特化した研修を受講しているパターンです。生成AIは進化のスピードが非常に速い技術です。現在主流のサービスも、1年後には大きく変化している可能性があります。そのため、特定のツールの操作方法だけを学んでも、長期的な人材育成にはつながりにくいのです。重要なのは、AIの考え方や活用方法の本質理解です。さらに研修の目的が、全社員のAIリテラシー向上なのか、業務改善人材の育成なのか、あるいはAI活用を推進する中核人材の育成なのかによって、選ぶべき研修内容も大きく変わります。
また、研修会社を選ぶ際には、研修内容だけでなく、その会社がどこまで企業全体のAI活用を理解しているかも重要なポイントです。AI活用には、システム開発、情報セキュリティ、ガバナンス、人材育成など幅広い要素が関わります。そのため、AIだけではなくIT全体を理解したうえで研修を設計できるかどうかが問われます。AI研修の目的は、社員が自ら考え、業務で活用し、組織全体に定着させることです。自走できる人材を育成する視点で研修を選ぶことが重要になります。
AI研修の提供主体は、ITに特化した企業、ビジネススキル全般を提供する教育会社、さらにコンサルティング会社、AIベンダーなど多様です。それぞれに特徴がありますが、体系的な教育設計や継続的な人材育成の観点から比較検討することが重要です。
AI研修のお役立ち資料をダウンロードする押さえるべきAI研修選定のポイント
AI研修の需要が高まり選択肢も増えるなか、人事担当者には「どの研修を選ぶべきか」という新たな課題が生まれています。同じような名称でも、内容や目的は大きく異なります。自社の課題や目的に合った研修を選ぶために確認すべき点を4点にまとめました。
1. カリキュラムが「体系的」に設計されているか
基礎が体系化されていれば、将来新しいツールが登場しても応用が効く。
2. 実業務を題材にした「実践型」であるか
自社の課題を持ち込んで改善策を練るような、実務直結の要素があるか。
3. 「IT全体の設計」を踏まえているか
システム開発の基礎、セキュリティ、ガバナンスまで包括して指導できるか。
4. 「自走(内製化)」を前提としているか
社内にノウハウが蓄積され、自ら活用方法を考え出せる状態を作れるか。

最初に確認したいのが、研修内容が体系的に設計されているかどうかです。重要なのは、生成AIの基本的な考え方や活用の原則を理解できることです。基礎から応用まで段階的に学べるカリキュラムであれば、新しいツールやサービスが登場しても応用しやすくなります。
次に確認したいのが、実践を前提とした内容になっているかという点です。研修中は理解できたとしても、実際の業務で使えなければ意味がありません。例えば、自社で日常的に行っている業務を題材に演習を行う、自社の課題を持ち込んで改善方法を考えるといった実践的な要素があるかどうかは重要な判断基準になります。
3つ目として挙げたいのが、IT全体の知識を踏まえているかという点です。システム開発やセキュリティ、ガバナンスまで含めて指導できるIT教育会社のほうが長期的なAI人材育成には適しています。
さらに重要なのが、自走を前提とした研修であるかどうかです。研修後も継続的に外部へ依存しなければ活用できない状態では、社内に知識やノウハウが蓄積されません。研修の目的は、社員が自ら考え、活用し、組織の中で展開できる状態を作ることです。答えを教えるだけではなく、自ら課題を発見し、活用方法を考えられるような教育設計が求められます。
今、人事担当者には経営層と現場の双方の視点で研修を選ぶことが求められます。経営層は全社的な変革や生産性向上を期待しています。一方現場は、まず目の前の業務を効率化したいと考えています。どちらか一方の視点だけでは、研修の成果は限定的になります。現場が活用しやすく、なおかつ組織全体の変革にもつながる内容であることが理想です。AI研修は一時的なブームではなく、企業の競争力を左右する人材投資となっています。
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稲葉光
インターネット・アカデミー ITコンサルタント 室長
インストラクター、カリキュラム開発、マーケティングなどの専門部署を経て身につけた幅広いITの知見を強みとするITコンサルタントで、400社を超える企業のデジタル人材育成を支援。
主な講演実績:神奈川工科大学、エコーネットコンソーシアムフォーラム
主な認定資格:認定資格:Python、Java、PHP、W3C dev、Adobe認定エキスパート、Google広告認定資格 ※他多数
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