DX人材育成の秘訣と指標&助成金(前編)
講演者:インターネット・アカデミー 稲葉光

本記事は、2024/4/16に開催された「DX人材育成の秘訣とDX人材育成のための指標と助成金」のセミナー講演内容の一部を紹介したものです。
本セミナーは、株式会社識学とインターネット・アカデミーの共催となっており、今回はインターネット・アカデミーが講演した以下の内容について紹介します。
- DX化のよくある失敗例
- DX人材育成の指標
- 費用を抑えるための助成金制度
DX化のよくある失敗例
現在、多くの企業が「人口減少」「原材料の高騰」「円安」など社会的な課題の影響を受け、業績の低下や競争力の低下などに悩まされています。生産性を高め、こうした課題を解決するためにはデジタル技術を活用した戦略が欠かせません。
こうした背景もあり、DXに取り組む企業は年々増えてきています。
「DX人材白書」でも、2022年版と2023年版のデータを比較すると、DXに取り組んでいる企業は増えており、2023年版のデータでは実に約70%の企業が取り組んでいると回答しています。アメリカでは約78%となっていますので、アメリカには若干の遅れをとっているものの、その差は縮まってきています。
一方で「DXの成果」については、アメリカでは約9割の企業が成果を実感しているのに対し、日本では6割未満となっています。

実際、「社内でDXの号令がかかったものの頓挫している」と感じている方も多いのではないでしょうか。インターネット・アカデミーへのお問い合わせでも「DXが失敗したので相談しました」といいうケースがあります。今回は、そうした企業様のケーススタディを紹介します。
失敗例1:現場にデータ分析を丸投げ
ある製造業の企業様では、管理職の方がITに苦手意識を持っていました。そのため、DX化に取り組もうとなった際に、ITに詳しい若手社員にデータ分析を丸投げしていたということが起きていました。
その若手社員の方はテクノロジーには詳しいものの、ビジネスを俯瞰して判断する力はまだ不足していました。そして、管理職の方も、若手社員の作成したレポートを鵜呑みにして判断をしていたという状況でした。
この企業様では、管理職向けのデータ分析研修により管理職の方のリテラシーを高めることで課題解決をしましたが、経営者や管理職がテクノロジーに苦手意識を持っていると、データ活用が進まなかったり、誤った判断で機会損失を招いてしまうリスクがあります。
失敗例2:デジタルツールを導入したが使われていなかった
ある建設業の企業様では、業務改善のためのアイデアが出やすい文化があり、さまざまな改善案が出るものの、それらが実行されずに流れてしまうという課題がありました。そうした流れのなかで、業務効率化やアイデアの管理をするためのデジタルツール導入が行われました。
しかし、導入はされたものの、現場ではほとんど使われていませんでした。導入時の旗振りが失敗していたこともあり、大半の社員がツール活用にメリットを感じておらず、操作方法もわからない、一部の社員だけがツールを使っているという状況でした。
結果的にはツール活用の研修をご利用いただくことで課題解決に至りましたが、現場の社員がメリットを感じていない状況でツール導入を進めると、こうした状況に陥りやすくなります。
失敗例3:とりあえずeラーニング導入で失敗
eラーニングはいつでも受講できることや費用が安いサービスも多いため、低コストでDX人材育成に取り組めますが、無計画に導入すると失敗に終わるリスクも高いです。
物流業界の企業様でも、社員数が多いため「とりあえずeラーニングから」と導入されましたが、テーマが広く浅くのサービスとなっており、社員に学習目的やコンセプトも十分に伝えていなかったため、学んだ内容が業務に活用されていませんでした。
eラーニングの場合、「ながら視聴で身にならない」「自分の業務と関係のない興味がある講座のみ視聴する」「業務を優先し視聴しない」などが起きやすいため、事前の計画や管理方法の検討も重要項目となります。
DX人材育成の成功例
一方で、トップダウンでDX化と人材育成を進められて成功した企業様や、DX人材のスキル定義をされたうえで教育に取り組んだケースなど、成功例もあります。インターネット・アカデミーの導入事例として紹介していますので、こちらも是非ご覧ください。
DX人材の評価指標と育成

いざDX人材の育成に取り組もうと思っても、実際には「何をしたらいいかわからない」という方も多いのではないでしょうか。
実際、弊社は何度か「デジタル人材育成支援EXPO」に出展しており、そこでDX人材育成のお悩み相談を受けておりますが、次のような悩みが多くあげられます。
- テクノロジーに弱く何を学ぶべきか必要かわからない
- DX戦略が描けておらず具体的に何をするのかわからない
- DX人材の定義がわからない(エンジニアがいればいいのか?)
こうした課題を解消するために役立つのが「デジタルスキル標準」です。
デジタルスキル標準は、DX人材の定義と役割、それぞれの人材に求められるスキルセットを標準化したものです。これは経済産業省とIPAが策定しており、IPAのサイトで無料公開されています。
基本的な構造としては、すべてのビジネスパーソンが身に着けるべきDX時代の標準スキルとなる「DXリテラシー標準」と、DX専門人材の役割ごとに必要なスキルを定義した「DX推進スキル標準」から成り立っています。

DXリテラシー標準には、基本的なITリテラシーからChatGPTなどの生成AI活用スキルなどが含まれています。
これらの解説は「漠然とした「DX人材」を読み解くためのデジタルスキル標準」で触れていますので、詳細はこちらの記事をご覧ください。
ちなみに、経済産業省の方も発信していますが、これらの人材やスキルは「必ずなくてはならないもの」ではなく、企業に応じて必要とされる人材やスキルは変わってきます。自社で全職種をそろえなくとも、外注することで補うことも可能です。あくまで、このデジタルスキル標準を下敷きにして、自社にとって必要となるDX人材とスキルを考えることが大切です。
インターネット・アカデミーへのお問い合わせでも「デジタルスキル標準を参考に自社の人材育成計画を立てたので、この部分のスキルを学ぶ研修をお願いしたい」という企業様もおりますが、デジタルスキル標準を用いることで人材育成計画や、社員の評価指標が策定しやすくなります。
デジタルスキル標準を活用したDX人材育成の流れ

理想的な流れとしては、まずは自社に必要なDX人材とスキルセットをまとめた人材育成計画を立てることでしょう。その後、全社員に必要なDXリテラシー標準の習得を経て、それぞれの専門人材のスキル習得に取り組んでいくイメージです。
しかし、いくら参考指標があるといっても、DXで何ができるのかというイメージがない状態で育成計画を立てるのも大変です。そうした場合にオススメなのは、まずは「DXリテラシー標準」で定義されているスキルの習得から始めることです。
DXリテラシー標準では、基本的なITリテラシーや、生成AI活用、データ利活用や関連ツールの活用などが含まれていますので、こうしたものを学習する過程で自社のDXの形が見えてきます。インターネット・アカデミーでは、DXリテラシー標準を身につけるための講座もご用意していますので、お気軽にご相談ください。
DX人材育成の費用を抑える助成金制度

全社員のDXリテラシーを高めたり、DX専門人材を育成するとなると、相応の費用がかかります。この人材育成にかかる費用負担を軽減できるのが、助成金制度です。今回は、厚生労働省の「人材開発支援助成金」について紹介します。
人材開発支援助成金には、目的に応じたさまざまなコースがありますが、基本的には「研修費用に対して支給される経費助成」と「受講中の賃金に対して支給される賃金助成」があります。
デジタル人材育成に活用できるコースはいくつかありますが、今回はその中から「事業展開等リスキリング支援コース」と「人材育成支援コース」を紹介します。
助成金の支給額と特徴
「事業展開等リスキリング支援コース」は、DX人材育成を目的としている場合に利用できるコースです。助成率が高いのが特徴で、最大で研修費用の75%と1人1時間あたり960円の助成金が支給されます。ちなみに、1事業所あたりの年間最大支給額は1億円となっており、人材開発支援助成金の中でも高額の支給となります。
「人材育成支援コース」は、新卒研修やITスキルアップ研修までさまざまなテーマで活用できるコースです。助成率は経費助成が最大45%、賃金助成が最大で1人1時間あたり760円となっており、事業展開等リスキリング支援コースに比べると控えめです。ただ、DX人材育成以外の目的でも利用できることや、申請手続きは他のコースよりも簡素化されているため使いやすいコースになっています。

インターネット・アカデミーでは、助成金を使ったIT研修の個別相談も承っていますので、お気軽にご相談ください。

稲葉光
インターネット・アカデミー ITコンサルタント 室長
インストラクター、カリキュラム開発、マーケティングなどの専門部署を経て身につけた幅広いITの知見を強みとするITコンサルタントで、400社を超える企業のデジタル人材育成を支援。
主な講演実績:神奈川工科大学、エコーネットコンソーシアムフォーラム
主な認定資格:認定資格:Python、Java、PHP、W3C dev、Adobe認定エキスパート、Google広告認定資格 ※他多数
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